誓約書を先に書かせると、慰謝料請求できなくなる?書き方の注意点

浮気が分かったあと、「とにかく二度と会わないと約束させたい」と考える人は多いはずです。そのとき、思いつきやすいのが誓約書です。けれど同時に、「先に誓約書を書かせたら、慰謝料を請求する権利がなくなるのでは」という不安もよく聞かれます。
この記事では、誓約書を先に書かせると、あとで慰謝料を請求できなくなるのかを、整理します。結論からいうと、誓約書を書かせたこと自体で請求できなくなるわけではありません。ただし、何を書くかで結果が変わります。さらに、ご相談を見ていると、誰に向けた書面か(夫か、浮気相手か)で、役に立ち方がまったく違うことも分かりました。
先に結論:書く内容しだい。「請求しない」と読める文言が危ない
- 誓約書は、反省と今後の約束を書く書面です。慰謝料を請求しない、とは別の話です。
- ただし、書き方によっては、慰謝料の請求の権利を手放したように読めることがあります。
- 無理に書かせた誓約書は、あとで「言わされた」と撤回されることがあります。強要はしないでください。
誓約書と示談書は、役割がちがう
混同されやすいのが、誓約書と示談書(合意書)です。
| 書面 | 主な役割 | 書く内容の例 |
|---|---|---|
| 誓約書 | 再発防止の約束 | 不貞を認める、二度と会わない、連絡しない |
| 示談書(合意書) | 金銭を含めた解決の合意 | 慰謝料の金額、支払い方法、接触禁止、違約金、口外禁止 |
誓約書には、金額や支払いの取り決めがないことが多く、示談書のように「これで解決した」と決める性格は弱めです。一方、示談書には、金額・支払い方法・接触禁止・違約金・口外禁止などを書きます。
誓約書を書かせたら、請求できなくなる?
誓約書を書かせただけでは、通常は失われない
浮気の慰謝料を請求する権利は、民法709条・710条を根拠に生じるものです。誓約書を書かせたこと自体で、この権利がなくなるわけではありません。
請求できなくなる書き方に注意
次のような文言が入っていると、請求が難しくなるおそれがあります。
- 「本件に関し、今後一切の請求をしない」
- 「本書面をもって、すべて解決したものとする」
- 「慰謝料の請求権を放棄する」
- 「債権債務が存在しないことを確認する」(清算条項と呼ばれる書き方)
これらは、示談書によく入る書き方で、慰謝料の問題をそこで終わらせる意味を持ちます。誓約書の雛形をそのまま使うと、意図せずこうした文言が混ざっていることがあります。
示談書に清算条項を入れるときの考え方
清算条項の範囲は、書き方しだいで変わります。あとから事実が違うと分かったときの扱いも、文言によって変わります。これは、示談のやり直しにも関わる点です(示談したあとに嘘が分かったらで整理しています)。不安があるなら、署名の前に弁護士に確認してください。
先に誓約書を書かせるメリットと、デメリット
メリット
- 不貞を認める内容があれば、事実を示す手がかりになる
- 接触禁止などの約束を文字に残せる
- 相手に、事の重大さを自覚させやすい
デメリット
- 強要や脅しがあったとあとで主張されるおそれがある
- 本人が書面の内容を撤回することがある
- 請求の権利を手放す書き方が混ざると、不利になる
- 相手に警戒され、証拠を消されるきっかけになりやすい
自白(書面や録音)は、肉体関係の証明として強い手がかりになる場合があります。ただ、強要は認められません。また、あとから撤回されることもあるため、頼りすぎないことが大切です。
実際の相談から:先に書かせた書面が、思ったように効かなかった3つの場面
寄せられた相談を見ていると、誓約書で悩む人の多くは、「請求できなくなるか」より前のところでつまずいています。誰が、誰に向けて書いた書面なのか、という点です。
相談の例:発覚して数日。まず「二度と会わない」誓約書だけ送るか迷っている
- まず見るべきは、相手に対する確実な証拠があるかどうか。夫の自白と録音だけでは、相手が否定した時点で、それ以上は進めなくなる可能性が高い。
- 勢いでいったん認めても、あとで調べて否定に転じることはよくある。
- 夫の自白は、夫本人にとっての証拠であって、相手に対する直接の証拠にはならない。
- できるなら、泳がせて証拠を固めてから請求する、という進め方が基本。
質問は「誓約書が先にあると損か」でしたが、答えの中心は別のところにありました。誓約書を送るかどうか以前に、相手が「そんな事実はない」と言ったとき、何が残るかが問われているのです。裁判所は証拠全体を見て判断しますが、夫の自白だけで相手に認めさせるのは難しいとされます。
ちなみに、請求せずに終わったケースについて、請求されずに済んだ側は、助かったと受け止めることが多いものです。制裁がないまま本当に関係が切れる例は少数、という経験則です。もちろん結果は人によって違うので、これは一つの見方として受け取ってください。
相談の例:相手にその場で合意書を書かせたい。夫の自白はあるが、相手は認めていない
- 相手が認めるなら、それでもよい。ただし認めなければ、証拠不十分で、それ以上は何も強制できなくなる。合意書か公正証書かは、その前の問題。
- 夫が自白しても、それは相手との関係では証拠として足りない。不貞を認めると離婚できない、と知って、あとから自白を引っ込めることも少なくない。
- 内容証明は、ただの手紙。送れることと、不貞を認めさせられることは別。
- 運よく応じる人もいるが、運に賭けてよい問題ではない。まだ会っているなら、その機会を探偵で押さえるのも手。
- 相手が働いていれば、判決や公正証書などがそろった先で、給料の差押えも可能。すべては「不貞を認めさせられるか」にかかっている。
あわせて、次の点も押さえておきたいところです。夫にいろいろな書面を書かせたところ、裁判になってから、相手側に「無理やり書かされたから無効だ」と主張された例があります。また、内容証明を送っても、すぐに謝ってくる人はおらず、みな受けて立ってきた、という例もあります。
この例の分かれ目は、書面にサインさせることと、その書面が後で通用することは別、という点です。相手のいる場で署名を求める方法は、強要と受け取られやすく、署名があとで争われる原因にもなります。強い言い方や、待ち伏せのような形は避け、文面と進め方は弁護士に確認してからにしてください。
相談の例:証拠は夫の誓約書だけ。弁護士が相手に連絡したら、相手も認めた
まず確認したいのは、次の2つです。
- 不貞の証拠は、ほかにあるか。
- 金額を、こちらから相手側に示していないのか。
証拠が誓約書だけだと、本来は相手に否認されると弱くなります。この例は、相手が認めたので進めやすかったという幸運な面があります。その一方で、認めた内容が書面や記録に残っているか、請求の金額や条件をどちらが先に出すのかは、依頼先の方針で変わります。弁護士によって進め方が違うことは珍しくないので、不安なときは、なぜその順番にするのかを依頼先に確認してください。納得できなければ、別の弁護士の意見を聞く(セカンドオピニオン)選択肢もあります。
この3つの例に共通するのは、夫に書かせた誓約書は、夫への手がかりにはなっても、相手を動かす力は別だということです。相手に請求するなら、相手が否認しても残る証拠(探偵の報告書など)を先に整える。そのうえで、金額や接触禁止を決める段階で、示談書や公正証書の形にする。こうした順番をおすすめします。
示談書にして残した人の話
誓約書より一歩進めて、書面にして残した例もあります。離婚をしない選択をした人が、あえて少し高めの金額を請求し、交渉の末、その7割ほどで合意できたそうです。相手に収入があったため、支払いも進んだといいます。そのとき、「連絡を取ったら1回ごとに違約金を払う」という約束も公正証書に入れておき、あとで実際に違約金を受け取れたといいます。
これは一人の経験であり、同じようにいくとは限りません。公正証書は、約束が破られたときに強制執行の手続きへ進みやすい書面ですが、内容をどう書くかで効力が変わります。金額や違約金の決め方は、弁護士や行政書士など専門家に文案を見てもらうのが安心です。
書かせる前に、確認したいこと
- 目的は何か。 慰謝料の請求か、二度と会わせない約束か、まず事実を認めさせたいのか
- 証拠は足りているか。 先に書かせて警戒されるより、証拠を整えてからのほうがよい場合も多い
- 誰に書かせるか。 夫だけか、浮気相手にもか
- どう書かせるか。 脅しや強要にならない形で、冷静に進められるか
先に書かせて安心するより、どの順番で進めるかのほうが大切です。証拠を出す順番については、証拠はいつ誰に出すかもあわせて読んでみてください。
誓約書に入れる内容の例
最低限、次のような内容が入っていると、約束の意味が伝わりやすくなります。
- 不貞の事実を認めること(いつから、どのくらいの期間か)
- 今後は二人で会わない、連絡をとらない
- 約束を破った場合の扱い(違約金など)
- 日付と署名
違約金や接触禁止の決め方は、接触禁止の約束を破られたとき:違約金は取れるかで整理しています。金額を決めるなら、示談書の形が向いている場合もあります。
「慰謝料は別途協議する」と書いておけば、金銭の問題が残ることが明確になります。こうした細かい点は、弁護士に文案を見てもらうのが確実です。
やってはいけないこと
- 殴る、怒鳴る、帰さないなどで、書かせる。 強要になり、書面の価値が失われるだけでなく、自分が責任を問われるおそれがあります
- 相手の職場や家族に知らせると脅す。 名誉毀損(刑法230条)や、慰謝料請求の対象になり得ます。事実でも成立し得ます
- 夫のスマホに無断でログインして、書かせる材料を探す。 不正アクセス禁止法などの問題になり得ます
- 内容をよく読まないまま、署名する。 請求の権利を手放す書き方になっていないか、必ず確認してください
証拠の集め方や請求の進め方に迷うとき
誓約書を書かせるか、示談書にするか、そもそも証拠は足りるのか。迷うときは、探偵や弁護士への相談も選択肢です。証拠が足りないなら、探偵に事実の調査を頼む方法もあります。書面の文案や請求の進め方は、弁護士の仕事です。
探偵は相談が無料の会社も多いので、状況に合わせて話を聞いてみてください。
よくある質問
気になるところを、質問ごとにまとめました。質問をタップすると、答えが開きます。
誓約書を書かせたら、慰謝料はもう請求できませんか?
誓約書を書かせたことだけで、請求できなくなるわけではありません。ただし、「一切の請求をしない」「すべて解決した」といった文言が入っていると、請求が難しくなることがあります。
夫に誓約書を書かせるのは、意味がありますか?
夫に「二度と会わない」と約束させる意味はあります。ただ、法的に強い拘束力があるとは限りません。違約金を決めても、金額が認められるかどうかは事情しだいです。
誓約書をスマホで撮った写真で残してもいいですか?
証拠として残すため、原本は大切に保管し、写しをとっておくと安心です。原本をなくすと、あとで争いになったときに困ります。
夫に書かせた誓約書があれば、浮気相手にも請求できますか?
夫が書いた書面は、夫が認めた手がかりにはなりますが、相手が否認したときに、それだけで認められるとは限りません。夫の自白だけでは相手には足りません。探偵の報告書など、相手に結びつく証拠を別に整えておくと安心です。
慰謝料の金額まで書いてもらったほうがいいですか?
金額まで決めるなら、示談書の形が向いています。金額・支払い方法・期限など、決めるべき項目が多く、書き方で結果が変わるので、弁護士に確認することをおすすめします。
まとめ
- 誓約書を書かせたことだけで、慰謝料の請求権が消えるわけではない。
- 危ないのは、「一切の請求をしない」「すべて解決した」などの文言が入ること。
- 誓約書は再発防止の約束、示談書は金銭を含めた解決の合意。役割が違う。
- 夫に書かせた書面は、浮気相手への証拠としては弱い。相手が否認しても残る証拠を先に整える。
- 強要や脅しで書かせると、あとで撤回されるうえ、自分が不利になる。
- 署名の前に、文面は弁護士に確認してもらうと安心。
「早く約束させたい」という気持ちは、当然のものです。けれど、順番を一歩ゆっくりにするだけで、守れるものが増えます。
この記事の情報源
- 民法(第709条・第710条・第724条)(2026年10月11日確認)



