浮気相手が「既婚者と知らなかった」と言うとき、慰謝料は請求できる?

浮気相手に連絡をしたら、「結婚していることは知りませんでした」と返ってきた。そんなとき、怒りと同時に「それでは請求できないのか」という不安が湧いてきます。
この記事では、浮気相手が「既婚者と知らなかった」と言った場合の慰謝料請求について、考え方を整理します。結論を先に言うと、「知らなかった」の一言で、すぐに責任がなくなるわけではありません。ただし、知らなかったことに過失がないと見られれば、責任が認められにくくなります。実際の相談では、「気づけたはず」と思う手がかりが、一つひとつは決め手になりにくいことが、つまずきの原因になっていました。
先に結論:「知らなかった」だけでは、まだ終わらない
- 慰謝料請求には、相手に故意または過失が必要です。「既婚者と知っていた(故意)」か、「少し注意すれば分かったのに気づかなかった(過失)」かが論点になります。
- 知らなかったことに過失がなければ、責任が認められにくいとされます。
- 大切なのは、「知っていた」または「知るべきだった」と言える事実や証拠が残っているかです。
- 気づけたはずと思う手がかりは、1つずつでは弱くても、重なると意味が変わることがあります。判断は弁護士に確認してください。
慰謝料請求の前提:不貞行為と故意・過失
浮気の慰謝料を相手に請求する根拠は、民法709条(不法行為)と710条(精神的損害の賠償)です。中心になるのは、配偶者以外の人と、自由な意思で肉体関係を持つこと(不貞行為)です。
浮気相手に責任を問うには、これに加えて、相手が既婚者だと知っていた、または注意すれば知ることができたという事情が必要になります。
| 相手の状態 | 責任の見られ方 |
|---|---|
| 既婚者だと知っていた(故意) | 責任が認められやすい |
| 知らなかったが、気づけたはず(過失あり) | 責任が認められることがある |
| 知らなかったし、気づく手がかりもなかった(過失なし) | 責任が認められにくい |
請求する側が、相手の故意または過失を示す必要があります。ここが難しいところです。
「知らなかった」と言い逃れされやすい場面
次のような場面では、相手が「知らなかった」と主張しやすくなります。
- 夫が結婚指輪を外していた、独身のように振る舞っていた
- 出会いがマッチングアプリや、飲み会、SNSで、家庭の話をしていなかった
- 夫の自宅に行ったことがなく、生活の様子を見ていなかった
- 夫が相手に「独身だ」と嘘をついていた
夫が嘘をついていたなら、相手が被害者の側にもなり得ます。その場合、相手への請求は難しくなりますが、夫への請求は別に考えられます。
「知るべきだった」と見られやすい事情
反対に、次のような事情があると、相手に過失があるとされやすくなります。
- 職場の同僚や上司・部下など、既婚だと知る機会が日常的にあった
- 夫が家庭の話をしていた(子どもの話、妻の話など)
- 夫の結婚指輪を見ていた
- 週末や祝日に会えない理由が家庭のことだと、繰り返し示されていた
- 家族との写真や、家庭を感じさせるものが目に入っていた
- LINEなどに、「奥さん」「子ども」といった言葉が出ていた
どれか1つで決まるのではなく、事情を総合して判断されることになります。
実際の相談から:「知らなかった」と言われた4つの場面
ここからは、寄せられた相談をもとにした例です。
相談の例:「気づけたはず」と思う手がかりはあるが、一つずつは弱い
- どの手がかりも、「既婚者だと分かった」と言い切れるほどではない。たとえば、身内の子どもの写真を待ち受けにする人もいる。「似ている」は身内にしか分からない。
- 指輪は、言いがかりと受け取られるレベルの材料。
- 相手の発言は、「断られなかったから独身だと思った」と読むこともできる。
- 決め手は、言い逃れできない不貞そのものの証拠があるかどうか。
- 相手が「騙された」と主張すれば、夫が相手から請求される、あるいは請求した慰謝料について夫に求償される可能性もある。再構築を望むなら、勢いで請求しない。
この例の分かれ目は、手がかりを単独で見るか、重ねて見るかです。妻は結局、「一つずつは弱くても、合わさるとどうなるか」を弁護士に聞くことにしました。こうした聞き方は、現実的です。過失の判断は事情の総合で決まり、手がかりの強さは並べ方でも変わるためです。
ここで気をつけたいのは、相手の発言は、読み方が2通りに分かれやすいことです。自分に都合のよい解釈だけで請求を進めず、第三者の見方も聞いておきましょう。求償の仕組みは夫と浮気相手の両方に請求するときの求償権にまとめています。
相談の例:夫が独身と偽っていた。相手は被害者の側かもしれない
- 相手が本当に既婚を知らなかったなら、相手の女性のほうが被害者の立場になり、夫に慰謝料を請求できる。
- 相手に請求すると、相手から夫への請求のきっかけにならないかという懸念もある。
- 手がかりがあっても、それでも気づかない人はいる。それでも、請求してみて、あとは裁判に委ねるという考え方がある。
- 示談書の内容や金額の決め方は、専門家に頼む領域。
並べられた手がかりは、どれも「あとから見れば不自然」というものです。ただ、相手が当時どう受け取ったかが論点です。夫が何と説明していたのか、独身だと言ったのか、離婚の話が進んでいると説明したのか。こうした説明は、報道された事例でも、相手が「離婚協議中と聞いていた」と主張する形で出てきます。
この妻は、夫への請求は「離婚すると決めたときだけ」にするつもりでした。家計を主に支えているのが自分で、夫が払うために借金することを避けたいという理由です。相手への請求と夫への請求は、目的を分けて考えることが大切です(離婚しない場合の慰謝料相場)。
ここで気をつけたいのは、相手への請求が、夫の側の責任につながり得ることです。夫の嘘が確認できれば、相手は夫に責任を求める立場になりえます。請求の前に、弁護士へ見通しを確認してください。
相談の例:相手の弁護士に「払う義務はない」と言われた。夫は「SNSで結婚を公開していた」と言う
- 相手が弁護士を立てて否定してきた段階では、弁護士を通して請求を進めるのがよい。
- 慰謝料が取れるかどうかも含めて、弁護士に相談したほうがよい。
回答は簡潔でしたが、ポイントははっきりしています。相手の弁護士が「払う義務はない」と言ってきたのは、過失はなかったという主張の入り口です。この段階で、自分だけで押し返そうとすると、感情的なやり取りになりやすくなります。
夫が言う「SNSで公開していたから知っていたはず」は、夫の言い分です。相手が実際にそれを見ていたか、見られる状態だったかは、別に確認が必要です。たとえば、相手がその投稿をフォローしていたのか、やり取りの中で触れていたのか。こうした点が、「知っていた」「知るべきだった」を示す材料になります。
ここで気をつけたいのは、夫の言い分をそのまま主張に使わないことです。夫は責任を軽くするために、都合のよい説明をすることがあります。
相談の例:相手の氏名しか分からない。先に「知っていたか」を確かめるべきか
- 請求するのは自由だが、現状では証拠が足りず、成功は見込みにくい。さらに、動き方によってはその後の証拠集めが難しくなる。
- まず必要なのは証拠固め。
- 手がかりが少ない中での探りは、一か八かの動きになり、失敗すると取り返しがつかない。浮気が確かなら、探偵も検討するとよい。
- 探偵費用は、状況ややり方で大きく変わる。
この例の分かれ目は、「知っていたかどうか」の確認より先に、不貞そのものの証拠と相手の特定がそろっているかです。相手が既婚と知っていたかは、特定のあとで、やり取りの内容や関係の経緯から整理します。先に動いて警戒されると、その後の調査が難しくなります。
ここで気をつけたいのは、相手に直接連絡して探りを入れることです。感情的な連絡は、後で自分に不利になることがあります(浮気相手に直接連絡・会うときのリスク)。
「知らなかった」と言われたら、まずやること
1. 感情的に反論しない
「そんなはずない」と詰め寄るのは逆効果です。相手が警戒し、証拠を消したり、口を閉ざしたりしやすくなります。
2. 相手の言い分を記録する
「いつ・どこで・どんなふうに」知らなかったと言っているのか、その言葉をそのまま記録します。書面やメッセージで残っているなら、保存します。
3. 「知っていた」を示せる証拠を探す
次のような手がかりを集めます。
- LINEなどで、夫の家庭に触れた会話がないか
- 二人の関係が始まったきっかけと時期
- 相手が夫の職場や家庭の事情を知りえた状況かどうか
- 夫が相手に何と説明していたか(夫に確認できる場合は、慎重に)
4. 夫にも事情を確認する
夫が相手に「既婚だと伝えていた」のか、「独身だと嘘をついた」のか。夫の話は、相手の言い分と食い違うことがあります。ただ、問い詰めすぎると警戒されて、話が通じなくなるので、冷静に聞き取るのが基本です。
やってはいけないこと
- 相手の職場や家族に、事実を伝える。 名誉毀損(刑法230条)や慰謝料請求の対象になり得ます。事実であっても成立し得ます
- 脅すような連絡を重ねる。 逆に、こちらが責任を問われることがあります
- 夫や相手のスマホに無断でログインして、証拠を探す。 不正アクセス禁止法などの問題になり得ます。夫婦でも同じです
- 「知っていたはずだ」と決めつけて、証拠がないまま請求書を送る。 相手の反発を強め、解決が遠のきやすくなります
夫に請求する道は残る
浮気相手に責任が認められにくくても、夫への請求は別の話です。夫と浮気相手は、連帯して責任を負うとされています。ただし、相手が責任を負わない場合は、夫だけが責任を負うことになります。
また、離婚する場合と離婚しない場合で、請求の考え方や金額の目安が違います。離婚する場合の慰謝料相場や離婚しない場合の慰謝料相場もあわせて読んでみてください。
証拠の集め方や請求の進め方に迷うとき
「知っていた」を示す証拠を整理したい、相手とのやりとりが不安、請求の進め方が分からない。そんなときは、探偵や弁護士への相談も選択肢です。探偵は、相手との関係の実態(会う頻度、場所など)を調べて報告できますが、「知っていたかどうか」の法律上の判断は、弁護士の仕事です。探偵は相談が無料の会社も多いので、状況に合わせて話を聞いてみてください。
よくある質問
気になるところを、質問ごとにまとめました。質問をタップすると、答えが開きます。
「既婚者と知らなかった」と言われたら、請求は諦めるべきですか?
諦める必要はありません。知らなかったことに過失があるかどうかは、事情を総合して判断されます。夫への請求という道もあります。弁護士に事情を伝えて、見通しを確認してください。
手がかりが1つずつ弱いときは、請求できませんか?
弱い手がかりでも、重なって意味が変わることがあります。ただし、相手の発言などは読み方が分かれやすいため、自分に都合のよい解釈だけで進めないことが大切です。弁護士に手がかりを一覧にして見せ、全体としてどう評価されるかを聞くのが現実的です。
相手の弁護士が「払う義務はない」と言ってきました。
過失がなかったという主張の入り口です。感情的に反論せず、弁護士を通して請求を進めるのが基本です。相手が実際に何を知りえたのかを示せるかが、争点になります。
途中から既婚者だと分かったのに、関係を続けていた場合は?
知ったあとも関係を続けていたなら、その時点からは「知っていた」と見られやすくなります。いつ知ったのかを示す事実が、ポイントになります。
相手が本当に知らなかったとしたら、夫だけに請求できますか?
理論上は可能です。ただ、離婚しないまま夫に請求すると、家計の中でお金が動くだけになる面があります。何を目的に請求するのかを整理してから、決めると後悔が少なくなります。
夫が「独身だと嘘をついた」と認めています。どうなりますか?
相手に過失がなければ、相手の責任は認められにくくなります。夫の嘘をどう評価するかは、離婚の話し合いや夫への請求の中で考えることになります。相手が被害者の立場で夫に責任を求める可能性もあるため、請求の前に弁護士へ確認してください。
まとめ
- 相手が「知らなかった」と言っても、それだけで責任がなくなるわけではない。
- 問われるのは、故意または過失。知らなかったことに過失がなければ、責任は認められにくい。
- 気づけたはずと思う手がかりは、1つずつでは弱くても重ねて評価されることがある。ただし、相手の発言は読み方が分かれやすい。
- 夫が独身を装っていた場合、相手が被害者の立場になることもある。請求の前に見通しを確認する。
- 相手に請求できなくても、夫への請求は別に考えられる。暴露や脅し、不正ログインは避ける。
「知らなかった」という言葉に揺さぶられるのは、無理もありません。ひとつずつ事実を整理していけば、次の一手が見えてきます。
この記事の情報源
- 民法(第709条・第710条)(2026年10月11日確認)



