養育費を確実にもらうための公正証書:書くこと・費用・差押えの流れ

離婚するときは「毎月養育費を払う」と言っていたのに、数か月で振込が止まった。そんな話は、残念ながら珍しくありません。口約束や、簡単なメモだけの約束では、いざというときに頼りにくいのが現実です。
この記事では、養育費の約束を公正証書にしておくと何が変わるのかを、実際の相談で多かったつまずきとあわせて整理します。書くべき項目、強制執行認諾文言の意味、払われないときの流れ、2026年4月の制度変更まで、順番にお伝えします。離婚届を出す前に読んでみてください。
先に結論:養育費は「強制執行認諾文言」つきの公正証書にしておく
- 養育費は、親の収入と子の人数・年齢をもとに、算定表を目安に決めるのが一般的です。
- 約束は、口約束ではなく公正証書にしておくと、支払いが止まったときの手続きが進めやすくなります。
- 公正証書に強制執行認諾文言を入れておけば、支払いが止まったとき、改めて裁判をしなくても、給料などの差押えの手続きに進めます。
- ただし、公正証書があっても、どこの会社の給料か、どの口座かは自分で特定する必要があります。書面の中身(終期や進学の扱い)の書き方次第で、結果も変わります。
養育費の基本
養育費は、子どもを育てるために必要な費用で、離婚しても親としての責任として続きます。浮気をした夫でも、この責任は変わりません。養育費は、母親自身のためのお金ではなく、子どものためのお金です。
金額は、裁判所が示す算定表を目安に、双方の収入、子の人数・年齢などから決めることが多いです。個別の事情で上下しますので、ここでは具体的な金額は書きません。
なぜ公正証書にするのか
公正証書は、公証役場で、公証人が作成する公的な書類です。私的に作った書面と比べて、次の違いがあります。
| 書面の種類 | 払われないとき |
|---|---|
| 口約束・メモ | 証明がむずかしく、まず裁判などの手続きが必要になる |
| 当事者だけで作った合意書 | 内容は証拠になる。2026年4月以降の取り決めは、差押えを申し立てられる場合もあるが、争いになりやすい |
| 強制執行認諾文言つきの公正証書 | 裁判なしで、差押えの手続きに進める |
実際の相談から:公正証書があっても、つまずく4つの場面
ここからは、ご相談をもとにした例です。「書面を作った」「口約束だけだった」のどちらでも、細かいところでつまずいていました。
相談の例:「20歳まで」と決めた。子が就職したら、もう払わなくていい?
これは支払う側からの相談でしたが、受け取る側が書面の文言を決めるときにも参考になります。この例では、次のように考えられます。
- いちばん大事なのは、公正証書の文言そのもの。
- 「20歳まで」と書いてある以上、就職しただけで当然に支払い義務がなくなるわけではない。ただし、子が就職して経済的に自立したことを理由に、相手が減額を求めて調停を申し立てることはあり得る。
- 下の子の進学は、「別途協議」とあるので、20歳を超える分は自動では発生しない。20歳以降も負担を求めるなら、改めて協議する。まとまらなければ家庭裁判所の調停になる。
- 協議は、会わなくてもできる。LINEやメール、手紙、弁護士を通す方法があり、調停なら調停委員が間に入るので、直接話さずに済む。
- 上の子の分を下の子に回す、という扱いは法的にはなく、受け取った人がお金をどう使うかの話になる。
この例の分かれ目は、終期や進学の扱いを、あいまいな言葉で残したことです。「別途協議」と書くと、あとで話し合いが必要になり、協議が決裂すれば調停になります。受け取る側としては、終期を「大学を卒業する年の3月まで」のように決める、進学の費用の分け方も具体的に書くなど、協議の余地を減らしておくほうが安全です。逆に、高校卒業後の就職を想定するなら、その場合の扱いも書いておくと争いになりにくくなります。
相談の例:離婚届を出した日に、口約束の養育費がすべてだと気づいた
- 離婚後でも、養育費は請求できる。子どもが成人するまでの、算定表に基づいた適切な額を求めればよい。
- 調停は弁護士がいなくても自分で申し立てられ、調停で決まった養育費は、口約束の協議離婚で決めたものよりも、取りはぐれにくい。
- 口約束を書面にして、お互いが署名押印したものがあるなら、公証人が内容を確認する「私署証書認証」という方法もある。当事者だけの書面より重みは増す。ただし、公正証書のように差押えにそのまま使えるわけではなく、のちの調停にどう影響するかは専門家に確認が必要。
- 並行して、児童手当の振込先変更、児童扶養手当の申請、ひとり親の医療費助成など、できる手続きを進める。口約束の養育費なら、児童扶養手当の計算では「もらっていない」扱いにしてよい、という見方もある。
この妻の場合に押さえておきたいのは、「離婚届を出したら、こちらのもの」と思われてしまうと、約束を守る理由がなくなるということです。話し合いの場で録音を宣言する、両家の親が同席する、モラハラが起きない場所で話すなど、離婚前なら打てた手がありました。公正証書は、離婚届の前に整えるのがいちばん楽です。それでも間に合わなかったときは、調停が現実的な道になります。
相談の例:勤務先から直接振り込んでもらう案は、安心?
- 会社が振り込む形は、夫が退職すればそこで止まる。会社の側も、振り込みようがなくなる。
- 個人の口座を差し押さえる形もあるが、口座を解約されれば同じことになる。専門家にも確認したほうがよい。
- 夫の生命保険の受取人を子どもにして残してもらうのも一案。ただし、受取人は後から変更できるため、夫の性格を考えて、交渉の仕方に注意が必要。
- 「受取人を変えない」「大学卒業まで解約しない」といった約束を公正証書に書けるかは、公証役場に問い合わせるのがよい。書けたとしても、法的な保証や罰則があるわけではない。
- 夫の課税証明を取って、算定表で養育費がいくらになるかを把握しておくと、落としどころを決めやすい。
勤め先経由は、一見安心そうでも、転職や退職に弱いのが弱点です。大事なのは、振込の「経路」ではなく、止まったときにどう差押えへ進めるかと、転職したら連絡する義務をあらかじめ書面に入れておくことです。「会社を辞めたら、新しい勤め先を知らせる」といった取り決めを、公正証書にできないか公証役場に相談するとよいでしょう。
相談の例:公正証書はあるのに、振込が滞り、夫の居場所も分からない
- 意味がないわけではない。ただ、「どこの会社の給料を差し押さえるのか」「どの口座を差し押さえるのか」は、自分で特定する必要がある。
- 公証役場は、差押えの手続きはしない。手続きは裁判所で行う。
- 現住所は、子どもの代理人として父親の戸籍の附票を取る方法がある(個別に市区町村や弁護士に確認を)。
- 勤め先や預貯金は、裁判所の財産開示や情報取得の手続きで調べる。費用が心配なら、自分で進めるやり方も調べられる。
この例のすれ違いは、「公正証書=自動的に取り立ててくれる」と思っていた点です。公正証書は、あくまで差押えを申し立てる資格を与えてくれるものです。実際に取り立てるには、裁判所へ申し立てて、相手の勤め先や口座を特定する必要があります。裁判所には、債務者の勤め先や預貯金の情報を、金融機関などの第三者から提供してもらう手続きがあります。養育費の不払いには、使いやすくした手続きも用意されています。細かい要件や費用は裁判所ごとに案内があるので、申立て前に確認してください。
公正証書に書いておきたい項目
内容があいまいだと、あとでもめる原因になります。次の項目を、できるだけ具体的に決めておきます。
- 金額。 子ども1人あたりなのか、総額なのか。毎月いくらか。
- 支払日。 毎月何日までに払うか。
- 支払い方法。 振込先の口座、振込手数料を誰が負担するか。
- いつまで払うか(終期)。 18歳まで、20歳まで、大学卒業まで、など。
- 進学や病気など、特別な費用の分担。 入学金や医療費のように、毎月の養育費では足りない費用をどうするか。「別途協議」だけにせず、分け方を書く。
- 収入が大きく変わったときの見直し。 失業や転職があったときに、話し合う約束を入れておく。
- 転職・住所変更の連絡。 勤め先や住所が変わったときに知らせる約束。
- 支払いが遅れたときの扱い。 遅延した場合の取り決め。
- 強制執行認諾文言。 支払いが止まったとき、強制執行を受けることを認める文言。
終期や金額は、あとから変えにくい部分です。子どもの年齢や進学の見通しを考え、慎重に決めてください。
公正証書の作り方
おおまかな流れは次のとおりです。
- 夫婦で養育費の内容を話し合って決める
- 公証役場に連絡して、必要な書類や手続きを確認する
- 公証人と案を調整し、内容を固める
- 公証役場で、署名・押印して完成する
必要書類、費用、本人が出向く必要があるかなどは、公証役場や状況によって変わります。事前に確認してください。作成には手数料がかかります。
ここで注意したいのは、夫の同意と、公証役場での手続きの二つがそろわないと進まないことです。「公正証書を作るのに2か月ほどかかる」と言われて、期限に間に合わず困る人もいます。急ぐ場面では、行政書士などが作る合意書でまず合意を固め、そのあとで公正証書へ進む方法もあります。
養育費の約束は、離婚届を出す前に決めておくのが理想です。
2026年4月の制度変更で、何が変わったのか
2026年4月1日に、養育費に関する民法などの改正が施行されました。ご相談でも話題に上がるので、押さえておきましょう。
- 法定養育費:養育費の取り決めをしないまま離婚した場合でも、子ども1人あたり月2万円を請求できる暫定的な仕組みができました。2026年4月以降に離婚した場合が対象で、金額の取り決めがあればそちらが優先されます。
- 私的な書面でも差押えの申立てが可能に:以前は、公正証書や調停調書などがないと差押えを申し立てられませんでした。改正後は、父母が作った取り決めの文書をもとに、給料などの差押えを申し立てられる場合があります。
2026年4月より前に決めた養育費にどう適用されるか、書面にどんな条件が必要かなどは、細かい点があります。法務省の案内や弁護士に確認してください。
とはいえ、私的な書面は、本人が作ったものかどうか、内容がはっきりしているかをめぐって争いになりやすい面があります。内容を公的に確認でき、強制執行認諾文言もつく公正証書は、これまでどおり有力な手段だと考えてよいでしょう。月2万円も、あくまで取り決めができるまでの暫定的な額です。子どもの生活に見合った額を、きちんと取り決めておく必要があります。
「あとで決めよう」にしない
離婚の話し合いでは、「養育費は落ち着いてから決めよう」と先送りにされがちです。ところが、離婚が成立すると、夫は「もう関係ない」という態度になることがあります。連絡がつきにくくなる場合もあります。
離婚届を出す前の今が、話し合いに応じてもらいやすい時期です。慰謝料や財産分与とあわせて、養育費の取り決めも一緒に書面にするのが安全です。親権や面会交流の約束も、同じ機会に整理しておくと、あとの手間が減ります。
夫が公正証書づくりを嫌がったら
浮気をした夫が、「そこまでしなくても、ちゃんと払う」と言って嫌がることがあります。そんなときは、次のように考えてください。
- 本当に払うつもりなら、公正証書にしても困らないはず
- 約束を残すのは、夫を疑うためでなく、子どもの生活を守るため
- 養育費は、数年から十数年と長期間続く。状況は変わりうる
どうしても応じない場合は、家庭裁判所の調停で決める方法もあります。調停で決まった内容も、強制執行に使える場合があります。夫と顔を合わせたくないときも、調停なら調停委員が間に入ります。
払われなくなったときの流れ
公正証書があっても、払われないときは、自分から手続きを進める必要があります。
- まず、支払いが止まったことを記録に残し、夫に連絡する
- それでも払われなければ、裁判所に強制執行(差押え)を申し立てる
- 給料を差し押さえる場合は、勤務先に支払いを求める手続きになる
養育費などの扶養義務に基づく債権は、給料の2分の1まで差し押さえ可能とされています。それ以外の債権が原則4分の1とされているのに比べて、大きな割合です。差し押さえるには、夫の勤務先や口座の情報が必要です。分かる範囲で、夫の勤務先などを控えておくと役立ちます。
養育費と、ほかのお金の関係
養育費は、慰謝料や財産分与とは別のお金です。浮気の慰謝料を受け取っても、養育費の代わりにはなりません。離婚前の生活費は婚姻費用、離婚後の子の費用は養育費、と整理しておくと分かりやすくなります。
財産分与については財産分与:隠し財産・ローン・学資保険も参考にしてください。別居中の生活費は婚姻費用はいつから請求できるかで説明しています。払われなかった慰謝料の取り立ては慰謝料を払ってもらえないときにまとめています。
作成前の最終チェック
公証役場へ行く前に、次の点を紙に書いて確認しておくと、当日の相談がスムーズです。
- 子どもの氏名・生年月日と、親権をどちらが持つか
- 夫の勤務先、住所、連絡先の最新情報
- 毎月の金額と、ボーナス時の加算があるか
- 終期をいつにするか(進学の見通しを含めて)
- 転職や退職、転居のときに知らせてもらう取り決め
- 夫と連絡が取れなくなったときのために、実家などの連絡先を共有する取り決め
よくある質問
気になるところを、質問ごとにまとめました。質問をタップすると、答えが開きます。
養育費の取り決めを、離婚後にしても間に合いますか?
離婚後でも話し合いや調停で決められます。離婚届を出したあとに調停で適正な額を求める道もあります。ただ、離婚前のほうが夫が応じやすいことも多いので、できるだけ離婚前に決めておくのがおすすめです。
公正証書にすれば、必ず払ってもらえますか?
必ず払われるとは言えません。ただ、払われないときに差押えの手続きに進めるため、約束を守らせる力は強くなります。勤め先や口座が分からないと進めにくいので、情報を控えておくことも大切です。
「公正証書があるのに払われない」とき、公証役場に頼めますか?
公証役場は差押えの手続きはしません。裁判所に、強制執行や、勤め先・預貯金を調べる手続きを申し立てることになります。
子どもが就職したら、養育費は終わりですか?
書面に「20歳まで」とあれば、就職しただけで当然に終わるとは限りません。ただ、子どもが自立したことを理由に、相手が減額を求めてくることはあります。終期と、就職した場合の扱いを、最初から書いておくと争いにくくなります。
再婚したら養育費はなくなりますか?
再婚だけで、自動的になくなるとは限りません。事情によって見直しが必要になることはあります。取り決めに、見直しのルールを入れておくと安心です。
夫が転職して勤務先が分からなくなったら?
給料の差押えには勤務先の情報が必要です。裁判所に、勤め先を調べる手続きがあります。進め方は、弁護士か裁判所の窓口に確認してください。
まとめ
- 養育費は、算定表を目安に決め、公正証書にしておく。
- 強制執行認諾文言があれば、払われないとき裁判なしで差押えの手続きに進める。
- 終期や進学の費用を「別途協議」でぼかさず、具体的に書く。転職したら知らせる約束も入れる。
- 公正証書があっても、勤め先や口座は自分で特定する。取り立ては公証役場でなく裁判所で行う。
- 離婚届を出す前に決めるのが理想。間に合わなかったときは、調停が現実的な道。
子どもの毎日を守るための約束です。書面にして残すことは、決して冷たいことではありません。
この記事の情報源
- 民事執行法(2026年10月11日確認)
- 民法(第768条)(2026年10月11日確認)
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」(2026年10月12日確認)
- 裁判所「第三者からの情報取得手続」(2026年10月12日確認)



